使用状況によって前後タイヤの摩耗に差が出てくる
クルマの駆動力を路面に伝える接点としてタイヤは重要な役割を果たしています。しかし、買ってから一度も交換せずに乗り続けている方も多いのではないでしょうか。
現在のクルマはFFが主流になり、重量と駆動力の両方の面からフロントタイヤにかかる負担が増え、とくにショルダー部分は予想以上に負荷がかかって摩耗が進みやすくなっています。
一方でFFだとリアタイヤの負荷は軽く、結果として前後のタイヤの摩耗に差が生じるのです。
タイヤを長持ちさせるタイヤローテーション
そこでおすすめしたいのが「タイヤローテーション」です。前後のタイヤを入れ替えることで、摩耗が進んだフロントタイヤを休ませるとともに、リアに装着されていたタイヤを有効に使って摩耗具合を均一化させることが期待できます。
同じタイヤをそのままの状態で使い続けているより長持ちさせることができる、経済的な方法だといえます。
タイヤローテーションのメリットとは、どのようなところにあるのでしょうか。埼玉県にあるタイヤ専門店のスタッフに聞いてみました。
「スーパースポーツなど前後でタイヤサイズが異なるクルマはともかく、一般的なクルマは前後のタイヤサイズが同じケースがほとんどです。
フロントタイヤをそのまま使い続けて新品に交換するより、前後ローテーションすることで、使い切れていなかったリアタイヤを有効活用できるのが最大のメリットだといえます」
クルマと路面をつなぐ大切な接点であるタイヤを良い状態で使い続けるためにも、タイヤローテーションは有効な手段だとタイヤ専門店のスタッフは教えてくれました。
「FFの場合、フロントタイヤは路面に駆動力を伝えるだけでなく、行きたい方向にステアリングを切る操舵力も加わるため、どうしてもショルダー部分に大きな力が加わり摩耗が進みやすいです。
これはFFだけでなくFRでも4WDでもフロントタイヤのショルダー部分がもっとも痛みやすい箇所といえます。すり減りすぎる前に一度はローテーションをおすすめしています。
厳密にいえば、前後で異なるキャンバー角(タイヤの地面に対する垂直方向の角度)などの影響で、前後タイヤの摩耗の仕方に多少の違いはありますが、そこまで気にしなくても大丈夫です。
それより摩耗が進み過ぎる前にローテーションして減り具合を均一にしてあげるほうが、グリップも均一化されるので性能も安定したりします」(タイヤ専門店スタッフ)
このタイヤローテーションですが、基本的には前後のタイヤ・ホイールを外して入れ替えるだけなので、自分で作業することも可能なメンテナンスではあります。
ただし、ジャッキで車体を上げる作業は注意すべきポイントが多く、手間を考えると、タイヤ専門店やピットを併設したガソリンスタンドなどプロにお願いしたほうが安全かつ、時間と労力の節約になりそうです。
「弊社では、ローテーションだけなら料金は1000円(消費税抜)ですが、多分どこで頼んでもそれくらいの費用で作業してもらえると思います。
所要時間も前後の入れ替えだけなら30分もかかりません。ジャッキやレンチを準備したり手や服も汚れることも考えると、プロに任せたほうがいいと思います」(タイヤ専門店スタッフ)
タイヤローテーションで注意すべきこととは?
自分でやる場合でも、プロに任せる場合でも、タイヤローテーションには注意すべきポイントがあります。
「タイヤの種類にもよりますが回転方向が定められているものもあり、この回転方向を間違えてしまうとタイヤを痛めるだけでなく、偏摩耗の原因になり、排水性にも影響が出て濡れた路面でのグリップ力低下も発生します。
ひと昔前のタイヤは前後の対角線上にローテーションするのが定番でしたが、回転方向が決まっているタイヤは片側の前後入れ替えが鉄則です」(タイヤ専門店スタッフ)
ローテーションするときは2か所ジャッキアップするのが良い
またDIYでローテーションするにしても、ボディのサイドシルの下側(車底に2箇所ずつ)にある「ジャッキアップポイント」と呼ばれるところに正しくジャッキをセットしないとボディを損傷してしまう恐れもあります。
「車載工具としてパンタグラフ式ジャッキが搭載されていると思いますが、あれは1輪用です。ひとつのジャッキで片側2輪を浮かせるのは大変危険で、もしバランスを崩した場合はボディを傷つけてしまうだけでなく、作業者のケガに繋がります。
ローテーションをする場合は2台のジャッキを用意して、片側の前後輪を同時に作業する必要があります」(タイヤ専門店スタッフ)
また、ジャッキアップできたとしても、今度は適正のトルクで締められたホイールナットを取り外す必要があります。
このようにかなりの手間と労力を必要とすることを考えると、自分でするよりタイヤ専門店やピットを併設したガソリンスタンドなど設備が整ったところでお願いした方が無難ですし、自分では気づかなかったタイヤの不具合なども教えてもらえるというメリットもありそうです。
クルマのタイヤは前後が同じサイズなので、タイヤ専門店でタイヤローテーションをしてもらいました。
新品のリプレイスタイヤ(ダンロップ DIREZZA DZ102)に交換してから約5000km近くを走破した状態だったこともあり、ローテーションするにはいいタイミングだったようです。
「だいたい新品のタイヤに交換してから5000kmを目安にローテーションをおすすめしています。これくらいのタイミングですと、フロントに装着したタイヤのショルダー部分の摩耗が進んでいる半面、リアタイヤは新品同様に綺麗な状態です。
ローテーションすると、また新品感覚でちょっと硬めのシャキッとしたハンドリングになると思います」(タイヤ専門店スタッフ)
また、DIREZZA DZ102は回転方向が決まっていたため、左右の前後を入れ替える形でローテーションを実施。実際に前後のタイヤを並べてみると、5000km走行時点でも摩耗具合の違いがわかります。それだけフロントタイヤに負荷がかかっていたということです。
「あと1、2回はローテーションできると思います。ハイグリップタイヤはグリップが高いぶん摩耗も早いので、タイヤの状態を確認する意味でもローテーションしてみるといいと思います」と、最後にアドバイスしてもらいました。
タイヤローテーションしてみると、新品のようなクイックなハンドリングが復活していました。タイヤ4本を新品に交換すると数万円の出費となりますが、タイヤローテーションは1000円でできるというのも魅力です。
手軽な作業で乗り味が変わるのと、タイヤが長持ちするタイヤローテーションを、一度試してみてはいかがでしょうか。